大安の不成就日。

ほぼペライチで気になったテーマのアウトプットをします。超遅筆ですが大目に見ていただけると幸いです。

金属工業に使われるシアンについて

2023年6月8日 大安 天一天上 (吉凶が方位の影響を受けない期間)
 更新を1ヶ月近くサボってしまい,大変申し訳ございませんでした!
 一点破線,復活です.(といいつつフォーマットや文体を忘れている)


 今回は「金属」と「シアン」の話です.


 ことの発端は12年ほど前にさかのぼります.
 ドラマ『相棒』の再放送を見ていた時です.ネタバレにならない説明にとどめますが,作中で「鉱物から金属を抽出する際にシアン化合物を使う」という解説がありました.
https://douga.tv-asahi.co.jp/program/16839-24193/24209
 リンク先 : 第18話「白い声」 相棒 season6 テレ朝動画 (tv-asahi.co.jp)
(この話は神回として名高いので,一度ご覧になってほしいです)
 その時は「へー」とだけ思って,そういう事実を覚えて終わってしまいました.


 時は流れて今年の春先.とあるセミナーに参加した時のことです.
 金属精錬や都市鉱山の話をしていただいた時,こんな言葉を聞きました.
「あれ,錯体にして分離しているんですよ」


 ――めっきの授業でやったところだ……


 というわけで,長年の疑問が一本につながった嬉しさと,それを調べなかった後悔が合わさって,この度ペライチ画像にまとめられることと相成りました.


※ 以下の内容は,当ブログの作成者が独自に調査し,理解できた内容をもとに記述しています.そのため,記事には万全を期していますが,見落としや誤解などによって生じる間違った説明が記載されている可能性があります.あらかじめご了承ください.また,さらに理解を深めたいと思った方,本ページをもとにレポートや記事を執筆しようとしている方には,文末に記載した参考文献に目を通すことを強く勧めます.なお,引用と明記されている部分の著作権は,原則として参考文献並びにその著作者に帰属します.



金属を抽出するには ~金・銀の青化法~

 端緒となった「鉱石から金属を分離する手法」についてです.


 溶液を使って鉱石から金属を抽出するプロセスを湿式精錬といいます.金・銀の青化法は,非常に貴な金属,つまり反応しにくい金(Au)や銀(Ag) (銀は酸素や硫黄と反応しやすいですが) を,酸素を用いてpH 9~11のシアンイオン(CN-)を含む水溶液中へ溶解させる手法です.
 金の場合,精鉱に石灰乳(=水酸化カルシウム Ca(OH)2)を加えて粉砕し,シアン化ナトリウム(NaCN),石灰,酢酸鉛などを加えると,次の化学反応が起きて水溶液へと溶解します.反応機構には2種類の説があります.
    4 Au + 8 NaCN + O2 + 2 H2O → 4 NaAu(CN)2 + 4 NaOH
    4 Au + 8 CN- + O2 + 4 H- → 4 Au(CN)-2 + 2 H2O
 銀を抽出するときは,反応式のAuをAgに置き換えるだけです.
 溶解した後,その上澄み液に亜鉛(Zn)を加えると,置換反応によってシアンと亜鉛がくっつき,余った金・銀は沈殿します.
    2 NaAu(CN)2 + 4 NaCN + 2 Zn + 2 H2O → 2 Na2Zn(CN)4 + 2 Au + 2 NaOH + H2

  • 石灰乳 : 保護アルカリといい,浸出液のpHを上記の範囲に保つため,および浸出液が酸性になるのを防ぎCN-を安定化させるために加えられる.
  • 酢酸鉛 : 液中に含まれる硫黄(S)を,硫化鉛(PbS)という形で除去するために用いる.


 ここで,次の疑問が生じました.

  • 疑問その1 では,ほかに溶かせる金属は ?
  • 疑問その2 では,回収技術にも使われるというのは ?

 これを,次の章で解説していきます.


いろいろ溶かせます ~めっき液の例~

 シアン化物を用いためっきである「シアン浴」についてまとめました.


金めっき
 硬質のめっきは電子部品のコネクターや接点に使われ,装飾用の場合では様々な色調を出すことも可能になります.
 金の供給源には,重たく高価な金陽極ではなく,シアン化金カリウムKAu(CN)2という薬品になります.


銀めっき
 工業的に行われている銀めっきの大半が高濃度シアン浴めっきです.後述の銅めっきと同じ仕組みで,銀が勝手に析出しないようにコントロールする意味があります.
 コネクター,スイッチ,摺動部のほか,装飾用にも用いられます.


銅めっき
 銅よりイオン化傾向が大きい鉄などの素地を,シアン以外のめっき液につけると溶けてしまい,代わりに銅が析出して,密着の悪い皮膜になります.シアン浴はそれを防いで銅を製膜できます.このように,本番のめっきを行う前に,本めっきとは異なる条件で行う短時間のめっきをストライクめっきと言います.
 シアン浴全般に言えることですが,柔軟で均一電着性に優れた被膜が得られ,主に下地用として用いられます.


亜鉛メッキ
 溶液中では,シアン化亜鉛ナトリウムNa2Zn(CN)4と,亜鉛酸ナトリウムNa2Zn(OH)4の2種類からなるジンケートという錯塩が,次のような平衡状態を保っています.
Na2Zn(CN)4 + 4 NaOH ⇄ Na2Zn(OH)4 + 4 NaCN
 二次加工性がよく,プレス小物や複雑形状品へのめっきに適します.


都市鉱山でも活躍 ~リサイクル法~

 ゴミとして廃棄される家電製品に含まれる資源の再生方法についてまとめました.


 まず,電子部品スクラップを回収します.
 次に,配線部分など,目的の金属の多いところだけを取りだします.その中に含まれる目的物質の量や状態,不純物などを分析し,分離・抽出の手法を決定します.
 そして,粉砕して溶かしやすくする,焼成して有機物などの成分を除去する,分級と言って異物を除去して貴金属のみをより分ける,などします.
 その後,液化する場合は薬品で溶かし,目当ての成分だけを吸着させたり,電気分解にかけるなどして回収します.
 ここで,最初の「鉱石から金属を分離する手法」が登場します.金・銀であれば,同じようにシアンで溶かして亜鉛で還元するという手法が使えます.工業的に使われる手法は少し異なるようですが,やはりシアンを含む化合物を使います.
 ちなみに,液化しない「乾式法」というものも存在するようです.
 最後に,製品に使えるくらいの純度まで精製したあと,地金などに加工して,再び工業製品の材料になります.



まとめを終えて

 繰り返しになりますが,サボってしまい,大変申し訳ございませんでした.一番反省すべきはここだと思います.大急ぎでやって,幅広く調べた結果が,このタイミングでしたので……
 とある講義で先生から言われた,このようなミニレポートでは「一つのテーマだけを扱うようにして,前半と後半など部分的に違う話をしないように」という言葉が蘇ります.後半で話が分離しちゃってるじゃん……
 そして,前回「要約はせず書き抜きのみ」と記載したのに,今回は後半を要約させていただきました.だってスペースと参考文献がなかった(とくにリサイクルの)んだもん……
 でも失敗したとは思ってないです.というか,強引に押し込まざるを得なくなってこの内容なので,及第点をとったというよりはそう評価せざるを得ないという感じです.


 この前の記事で次回予告をしていましたが,テーマを変えずに調査自体は行っているので,近日中に公開できればと思っています.
 次回テーマは「最新の半導体について(仮)」を予定しています.次回の更新は6月14日(水)または6月24日(土)を予定しています.




参考文献

「金属化学シリーズ 第 3 巻 金属製錬工学」,日本金属学会 (編) ,丸善,1999 年,p. 120 .
「材料製造技術」,文部科学省著作教科書 (工業) ,平成 27 年,実教出版,p. 173 - 174 .
「図解入門 よくわかる最新 めっきの基本と仕組み [第 3 版]」,土井 正 (著) ,2020 年,秀和システム,p. 116 - 119・p. 124 - 125・p. 130 - 133  .
「新めっき技術」,斎藤 囲・本間 英夫・山下 嗣人 (著) ,2011 年,丸善 / 関東学院大学出版会,p. 99 - 103 ,p. 127 - 131 ,p. 157 - 168 .
新井陽太郎・実教出版 : レアメタル・貴金属の回収技術の基礎,じっきょう資料|工業,2011 年 5 月 10 日最終更新, https://www.jikkyo.co.jp/contents/download/9992655133 (pdfファイルダウンロード用リンク) ,2023 年 4 月 26 日閲覧.
生田 紘隆・田中貴金属工業 : 〔解説〕貴金属のリサイクルプロセス,田中貴金属グループ 産業事業グローバルサイト,2021 年 7 月 14 日最終更新,https://tanaka-preciousmetals.com/jp/elements/article24/ , ‎2023 ‎年 ‎5‎ 月 ‎10 ‎日閲覧.


2023年8月4日 追記

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2024年2月9日 追記

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